「森・寺の石仏さん」
ボランティア解説員 中光司

秋は実りの季節です。交野の里にも黄金色に輝く稲穂が見られ、山のふもとに位置する森地区や寺地区の石仏さんを見て歩くのに、うってつけの季節になりました。
 今回は、そんな森・寺地区の石仏さんを紹介したいと思います。

森の蛙石
 河内森駅から東へしばらく進むと、突き当たりの角に2つの大きな石灯ろうが立っています。その傍らには、カエルに似た形をしている蛙石と呼ばれる石があります。
 この蛙石には、石にまつわる悲しいお話があります。
 その昔、森の城戸という所に由松とお種という仲の良い夫婦がいました。ある日、由松は代官から大和郡山城の工事に行くよう命令され、嫌とも言えず石垣の工事に行きました。
 工事に行った由松からの便りでは、3か月もすれば帰るとのことでしたが、3か月が過ぎても工事に行った他の人は帰ってくるのに由松は帰ってきませんでした。
 そんななか、とある人の話で、城の石垣がくずれて下敷きになって死んだ人がいるということを知ります。
 お種は、まさかその人が由松ではと思いますが、いや、由松はきっと帰ってくると信じ、来る日も来る日も森の道端で、由松の帰りを今か今かと待ちわびて、ついにはこの蛙石になってしまったということです。
 この蛙石をよく見ると、森から磐船街道へ出る道の方を見て、人を待ちわびているように見えるではありませんか。
共同墓地の三尊石仏

 蛙石の突き当たりを左に曲がって進むと、自動車1台がやっと通ることができる古道になります。この道は「山の根の道」とも呼ばれ、河内磐船駅から神宮寺に抜ける森南神宮寺線に突き当たります。
 そのすぐ手前を右に進むと左側に須弥寺、右側に池が見え、さらに進むと森の共同墓地に到着します。
 墓地の入り口には、六地蔵があり、その横に三尊石仏さんが並んで立っておられます。
 頭部の比率がやや大きく、衣服の表現が簡素であることから、室町時代後期の作だと推測されています。

笠塔婆と五輪塔火輪
 共同墓地内、三尊石仏から、まっすぐ奥に進んだ所に迎え仏があります。その右側に無縁墓を集めた一角があり、その横の個人墓の中に五輪塔の火輪を乗せた笠塔婆が立っています。もとは別々の石造物でしたが、後世に組み直されたものです。
 笠塔婆には、もとは各面に「南無阿弥陀仏」と刻まれていたのですが、後に梵字と如来さんが彫られたようです。
 笠塔婆の上に乗っている五輪塔の火輪は、各面に梵字が彫られており、珍しいものです。
正行寺の地蔵団地
 共同墓地から、森南神宮寺線まで戻り、寺へ向かいます。交野高校横の道と交わる交差点を右に進むと正行寺にたどり着きます。
 正行寺の門を入って右隅に、石仏がきれいに並んで立っています。これは昭和50年、古文化同好会の人たちの手によって、お参りしやすいよう整頓され、一つひとつの石仏の姿が分かるようにしたもので、「地蔵団地」とも呼ばれています。
 その中で目を引くものの一つに、地蔵団地の5列目、右から2番目の阿弥陀如来坐像があります。船形状に粗く加工され、その中に仏さまが彫られています。しゃがんで拝まないと、表情がうかがい知れません。
 次に7列目、右から2番目の二尊仏があります。方形の石に向かって右側に阿弥陀如来立像、左側に地蔵菩薩立像が彫られています。
 この石仏さんは石の形態から、元は石龕仏であったと思われます。龕とは、仏像・舎利(仏や聖人の遺骨)・経巻(経文を記した巻物)などを安置する容器のことです。台座部分が土に埋もれて分かりにくいですが、2人の子どもが何か一心に拝んでいるようにも見え、微笑ましい石仏さんです。
 正行寺の前の辻には、「愛宕山」「二月堂」「柳谷」と刻まれたおおきな3基の灯ろうがあります。昔、それぞれの信仰する講があって、ここに集まってはお祈りやお祭りをしたものだと思われます。
阿弥陀如来
二尊仏
地蔵団地
不動明王梵字碑

 灯ろうのある辻の前を南北に伸びる道が、森村につながる「山の根の道」です。この古道を北に進むと、森南神宮寺線へ再度合流し、しばらく進むと関西創価学園が見えてきます。
 関西創価学園入り口の南、山の横の畑に入る細い野道に入って奥の小さな池のそばに、正面を平らに整えた石があり、そこに不動明王の種字「カーンマーン」の梵字が彫られています。
 この場所は「京の山」といい、付近には「日教坊」という地名も残っています。梵字碑の東側、関西創価学園敷地内で、昭和47年に府の教育委員会が窯跡を発掘した際、多量の古瓦を敷き詰めた跡が出土しています。
 鎌倉・室町時代、この場所には寺院があり、この不動明王梵字碑も、その寺院に関わるものではないかと指摘されています。夏は草が生い茂り、なかなか入れる場所ではありませんが、冬場になれば見に行くことができます。

協力:歴史民俗資料展示室ボランティア解説員(TEL810・6667)