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夜泣き石(源氏の滝)(倉治)
源氏の滝
 交野の里に源氏姫という美しい姫と、梅千代という可愛い少年が住んでいた。源氏姫と梅千代は姉弟ではなかったが、二人とも幼いころ、母と生き別れた身の上で親身の姉弟のように一緒に暮らしていた。 その頃、大和と河内の国境に「おろち山」という山が有り、そこに一団の賊が住んでいた。その賊は、時折山を降りては近郷近在の家々を襲い掠奪(りゃくだつ)をほしいままにしていた。

ある年の暮れ、この山賊の一団は遂に、交野の里にも現れ源氏姫の邸を襲い、姫と梅千代を縛り上げ引揚げた。山賊の女の頭(かしら)に手下の一人が美しい姫と少年をさらってきたと報告すると、40になるかならぬの美しい女の頭は、早速その二人を連れてくるように命じた。少年は襲われた際の驚きで、最早(もはや)息絶えていた。

女の頭は、じっとその少年の死骸(しがい)に眼を注いでいたが、急に顔色を変え、手下どもを別室に下げ、かれらが別室に去ると、急いで姫の縄を解き、少年の死体を抱き上げてはらはらと涙を流した。この不思議な様子に姫は訝しく思ったが、可愛い梅千代の死体を見るともうたまらなくなり、「弟の敵、思い知れ」と叫びざま躍り掛かり、短刀で女の頭の胸を刺した。
 けれども、女の頭はこれに抵抗するでもなく、姫の手を掴みながら「源氏姫、梅千代、許しておくれ」と、苦痛に歪む頬に涙を滂沱(ぼうだ)と流しながら叫んだ。
姫は仇の口から意外な言葉を聴いて愕然(がくぜん)とした。

女の頭の苦痛を耐えつつ途切れ途切れに物語るには、女は正しく二人の実母で、まだ女の頭が若い頃、ある家に嫁いで一人の姫をもうけたが、ある事情で姫を残して別れ、それから再び他家へ嫁ぎ、一人の男児を産むとまた離別した。 夜泣き石

それから18年の月日を送ったが、二人の子供のことが気にかかり、山賊といえども一度は逢いたいと念じていた。今日偶然にも二人の子供と意外な対面が母子相互いに殺し殺されつして悲しい最期(さいご)を遂げるのだ、とのことであった。 姉弟のように暮らしてきた梅千代は弟であり、山賊の頭は姉弟の産みの母であろうとは。


 しかもその母を自分の手にかけてしまったとは何とした悲しいことか。姫の目先は真暗になり、母と弟にすがり付いてはた泣きに泣いたのであった。 そして、姫はそこを飛び出すと付近の滝壷に身を投げて母や弟の後を追ったという。(伝説の河内より)

源氏の滝の入口、石仏が沢山並べられている付近に夜泣き石がある。源氏姫が悲しみのあまり、滝壷に身を投げてから、この石が泣くという

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